いい加減な人じゃない
父は優しい言葉があふれる家庭を作りたかったんだろうな、と思う。
いつか、自分の母親のことを、子ども育てるような女の人と違うかったんちがう?
と軽く話していた。
生まれて初めて見た人が安心できる相手ではなかったから、人に安心するのは難しくて、生きるために、傷つけられないために、自然と身につけた術がお喋りと気遣いだったのだろう。
そのことを、もっと早く私だけでもわかってあげられたらよかった。
母は父のことを、いい加減な人、と言い続けた。
嘘つきだとよく怒っていた。
数年前に、まさかと思って一度だけ、お父さんは例えばどんな嘘をついたの?と聞いてみた。
母は、そんなこと急に言われても、と困りながらも思い出して、
こないだも外で誰かに、海外で行ってないとこおまへんわ、って嘘ついてた、と言った。
お母さん、それ、冗談やん…。
父母は3、4回海外旅行をしていた。
プレゼントしたことだけが、本当にそれだけが今となっては救いになる。
でも父は、何十年も自分の味方をしてくれなかった娘が、母と仲良くするのを、優しい目で見ていた。
いつしか、自分の味方になってくれるより母と揉めないてほしい、と望むようになっていたのだと思う。
昨年5月ごろ可愛い靴を、今年になって可愛いベストを母にあげた。
父をホッとさせてよかった。