私 ねたんでたんかな
父は料理以外の家事は何でもする人で、器用なので、家のあちこちを便利なように直したり作ったり、大工仕事もよくしていた。
でも、母には気に入らないことが多くて、もう!お父さんは!とよく言われていた。
父は散歩中も家のガレージにいても、よく人に声をかけた。
根っからのお喋りではなく、人がいるのに何も言わないのはわるい、と思っているようだった。
結構気を遣っていて、時には気疲れしていることを、最近私は気付いていた。
見ず知らずの人でも、父が何度か挨拶を続けていると挨拶してくれるようになって、だんだん会話が増えていくらしい。
散歩中、お花の手入れをしているおばあさんを見れば、いつも綺麗にしてはるねぇ、と。
自販機でジュースを買おうとしていた父を見つけて、嬉しそうに近寄って来た知人には、即座に、なに飲む? と。
私は側にいて内心、私が娘です、と誇らしかった。
よく家の前を通る人には、そのうち家に行って棚を作ってあげるまでに。
母はそれも気に入らなかった。
父がいなくなった後、母が、私 ねたんでたんかな、とポツリと言った。
今さら遅いと思ったけれど、初めて聞く言葉で驚いた。
私が長い時間をかけて、母を怒らせずに、母が納得できるように、話をしてこられていたらよかった、と思う。