蝉
通勤電車は各駅に停まるので、扉が開くとだいたいは蝉の声が聞こえる。
駅だけではなく途中の所々でも。
今朝もすいている車内でぼーっと聞いていた。
いつも不安だった私はきっと、毎年8月の後半になると、蝉がもう鳴かなくなるんじゃないかと気にしていたと思う。
まだ大丈夫。たくさん鳴いてる。
よかった。まだ鳴いてる。
でも、いくら耳をすましても聞こえなくなる日は来てしまう。
昨日のが最後の1匹だったのかな。
家の中では聞こえなくなっても、外に出掛けるとまたその元気な声が聞こえてきて、ホッとした。
いなくなるもの、終わってしまうもの、そんなものを追いかけてばかり、思ってばかりの年月だったのだろうか。
いつまでも追いかけて、いつまでも後悔しているから、次にやって来ている大事なものに、またエネルギーを向けられなかったのでは。
その時々に精一杯相対したのなら、もうそれでよかったのに。
相対したのが本当の自分ではなくて、納得できなくても、もう、一つひとつ卒業して次に進むしかないのに。
今持っているエネルギーが少ないなら、なおのこと「今」に使うべきだった。
さっきまで鳴き声は聞こえていたのに、
ひとときの空白。
でもまた聞こえ始めることはわかってる。
梅雨が明けたばかりだからまだまだ大丈夫。
今を一生懸命生きるエネルギーを、近くで感じさせてもらってありがとう、としみじみ思う。