一度いなくなって
父が遠くに行ってしまうのはもう避けられないとわかった時、絶対一緒に行けるのなら私も行きたい、と本当に思った。
でもそれは無理なことだわかる冷静さはあって、もう、一度はいなくなった自分だからどこにでも行ける、地球のどこかに全部忘れられる私の居場所があるかもしれない、と思った。
そして、誰かを助けられるなら生き残ったこの命を使いたい、と本気で。
綻びに気付くはずもなく過ごしていた子ども時代。
その続きに新しい家族が生まれても、初めの家族の中にあった綻びを繕っておかないといつか大きく破れてしまう。
綻びがあることも、それを繕らないといけないことも、私がわかっていなかったために今までさんざん迷惑をかけた新しい家族。
家族に会えなくなったとしても、この人たちはきっと大丈夫。
かえって私がいない方が幸せになってくれると思う。
一番父のことを好きだったのは私だというのは確かで、その私が父を助けられなかった悲しみは、他の誰かにわかってもらえるはずがない。
癒される言葉があるはずがない。
だからどうしても、私はこれから独りになる。
一度いなくなって、新しいことばかりで心を満たしていくしかないのだと思う。